海外不動産投資の話になると「ASEAN各国は、やがて先進国になる」という営業トークをよく耳にします。私はこの手の話には懐疑的で、あくまでも「現地の人が売買できる価格であること」が出口戦略としては正しいと考えています。今回は、その根拠をご紹介します。
ASEAN新興国は将来、先進国になれるのか?
【ASEAN新興国は将来先進国になれるのか?】
ASEAN圏の不動産投資セミナーを聞いてて、私がいつも気になるのは、こういうセールストーク。
「日本の東京・南青山と比べて、ASEAN〇〇国の都心エリアの不動産は、坪単価からみて、いま買えば割安です!」
この立論が妥当性を持つためには、〇〇国の所得水準が将来、日本のレベルに追いつくという前提が必要です。そこで「1990年以降の日本とASEANの経済成長率推移」みたいなグラフが使われるわけですが、日本経済の絶頂期を始点に持ってくる見せ方自体が作為的に思われてならない。
そこで、「1950年以降、各国の一人あたり名目GDPの対米国比」のグラフを使ってみたところ、面白いことが分かりました。
・対米国比で70%以上になると、おおむね「経済先進国」と呼ばれる。欧州の多くの国は70~80%レベルで推移している。
・非欧米圏で、先進国レベルに追いついた国は歴史上、1ヶ国しかない。それが日本。
・貧しい状態から出発して、対米国比で10~70%の範囲を、急速に駆け上ることができたのは3ヶ国のみ。それが日本、韓国、中国。
・世界のほとんどの国は、対米国比で20%を超えるあたりで足踏みして、それ以上に成長していかない(特に中南米)。
次に、ASEANの中堅国であるマレーシア、タイ、フィリピン、ベトナムの、過去40年間(1980~2019)の一人あたり名目GDPの対米国比のグラフをつくってみました。それをみると、
・どの国も、対米国比20%を一度も達成していない。多少のレベルアップはあれど、各国とも5~20%の範囲で足踏みしているように見える。
過去40年間の数字がこのように推移してきたASEANの国々が、将来、日本や韓国のように、欧米レベルにキャッチアップできると考える根拠は何か?フェアにみて、かなりの飛躍が必要だと思う。
引用:鈴木学氏(株式会社国際不動産エージェント)のFB投稿より
「世界のほとんどの国は、対米国比で20%を超えるあたりで足踏みして、それ以上に成長していかない(特に中南米)」「どの国も、対米国比20%を一度も達成していない。多少のレベルアップはあれど、各国とも5~20%の範囲で足踏みしているように見える」というのが、グラフにすると一目瞭然ですね。
それだけ、日本や韓国、中国の経済成長は世界的にみて稀な存在ということなのでしょう。
ただ、「経済成長率」でみれば、ASEAN各国が成長中なのは明らかです。現地に行ってみれば、消費意欲旺盛で人や町のエネルギーを感じることができるでしょう。単純なタイムマシン経営はできませんが、かつて日本で流行ったビジネスが各地で流行る可能性はあるかもしれません。
とは言え、不動産投資の観点で言えば「法整備がされており、かつ取引実績やデータが豊富な青山の不動産」と「法整備がまだで、かつ取引実績やデータが乏しい新興国の不動産」を同じ基準で比べることはできませんね。
経済的植民地支配(新植民地主義)は続く?
もうひとつ、新興国のGDPが先進国レベルに到達しにくい理由があります。それは、経済的植民地支配(新植民地主義)です。
新植民地主義とは、
新植民地主義(しんしょくみんちしゅぎ、Neocolonialism)とは、ポストコロニアル批評において発展途上国の様態を形容する際用いられる用語。かつての宗主国が築き上げた現存するあるいは過去の国際的な経済協定が、第二次世界大戦後に発生した脱植民地化を経てもなお、独立国に対しその支配を維持すべく利用されている(又はされていた)とする。
「新植民地主義」の語は今日における「現実の」植民地主義(国連決議に違反してまで外国の領土とその国民を統治する国家が存在する[1])及び旧植民地で展開されている資本主義的事業の双方を批判の射程に入れることが多い。とりわけ多国籍企業が発展途上国の資源を搾取する構図を強調し、この経済支配が16世紀から20世紀にかけてのヨーロッパの植民地主義を髣髴とさせるとの批判がある。広義では大国による小国への内政干渉(特に現代のラテンアメリカ)を指し、帝国主義時代の列強諸国にも似た大国の行動そのものが一種の「経済的帝国主義」と重なることを示唆する。
植民地支配が終わった後も、経済的な植民地支配は実態的としては続いているという意味合いを指します。
経済戦争と植民地支配
このような事例から言える事は、植民地と宗主国という関係性から利益を享受する第二次世界大戦以前のシステムは崩壊しましたが、経済的な結びつきを利用して途上国から先進国が利益を得る手法はまだまだたくさんあるという事です。
このように経済的な結びつきによって先進国が途上国から利益を搾取する方法は新植民地主義と呼ばれており、様々な問題が発生しています。
このように、先進国では武力による戦争を行うケースは極めてまれですが、どの国も自国の経済力を武器にして経済戦争という形でなお覇権を争っていると言えます。
更にこの経済戦争には新しいプレイヤーとして企業が加わっています。多国籍に活動する巨大企業は時に国家よりも大きな権力を持ちます。すなわちトヨタが日本の豊田市に大きな影響を与えているように、巨大な企業が国の政策に大きな影響を与えるようになっているのです。例えば法人税率の減税が先進国でたびたび議論になっていますがこれは税金が高ければ多国籍企業はその国から会社を移動させてしまうので、多国籍企業に配慮した結果法人税の値下げ合戦に陥っていると言えます。
このように現代は経済と言うルールで、先進国、途上国、多国籍企業は自分たちの利益確保のために激しい争いを繰り広げています。
巨大企業の多い先進国は、経済的に新興国に影響を及ぼし続けているというわけですね。
海外不動産投資をする際は、セールストークに注意
今回のコロナショックは、世界同時に起こった実体経済直撃型の経済危機です。国を越えた移動が制限されていますから、国を越えた不動産取引も減速している印象があります。また、主要都市の不動産価格はまだ落ちていないという情報も多くあります。
ただし、リゾート地ではホテルなどの事業が不動産とセットで比較的安く売りに出されるなどのケースは出てきています。新型コロナウイルスの影響が長引けば、やがてはレジデンスやオフィスなどの不動産価格にも影響が出てくるかもしれません。
安いと感じ、その後価値が高まる(高められる)と思えば、そのときが買い時でしょう。
「やがて増税やハイパーインフレが起こるから、今から海外資産を持っておいた方が良い」
「今が投資や資産運用の始め時」
と、すぐに投資や購入を煽ってくる業者が多くいますが、セールストークには注意が必要です。海外に不動産などの資産を持つことは至って自然なことですから、コロナショックを機に考えるようなことでもありません。特に不動産は投資というより事業ですので、日本で事業を始めるときに調査をしたり計画を作ったりするのと同じように、綿密な事前準備が必要です。
「新興国だから上手くいく」なんてことはありませんので、投資勧誘にはくれぐれもご注意ください。