「○○戦略」と名の付く経営理論は数多くあります。どんな企業、どんな時代にも効果のある魔法のようなベストな戦略は存在しませんが、自社に合うベターな戦略を見つけ出すことはできるかもしれません。今回は「創発的戦略」についてご紹介します。
創発的戦略のメリットとは
創発的戦略については、『意図的戦略と創発的戦略の違い 「戦略を持たない戦略」で生き残りを図る? 』でも書いていますので、気になる方は読んでみてください。
創発的戦略とは、事前に計画されたものではなく、行動の結果、事後的にパターン化された戦略のこと。コロナショックのような予期しない環境変化に伴い、それを新たな事業機会として捉え、創発的に戦略を創造していくことを指します。
創発的戦略のメリットは、予期しない変化(トラブルやチャンス)を事業機会として捉え、対処できる点です。つまり、柔軟な対応が可能となります。あらかじめ策定した計画や戦略のとおりに物事が進むケースは多くありません。策定した経営戦略に縛られ絶対視してしまうと、上手くいかなかったときに対応できない…というリスクがあります。
一方で、トラブルを成長の糧と捉えておけば、環境変化が生じる度に創発的戦略を作り上げて、環境に適応しながら成長し続けることができます。
創発的戦略と対比されることの多い「意図的戦略」とは、事前に経営陣や戦略チームが策定する計画された戦略のことです。意図的戦略のメリットは、会社の目指す姿が明確になり、社員の行動を規定することができる点です。日々の行動の不確実性が減り、社員のモチベーション管理にも役立つでしょう。しかし一方で、ただ計画に従うだけの組織になってしまい、いわゆる「指示待ち」の人が増えてしまうというデメリットもあります。環境の変化に即した柔軟な組織づくりが必要となるでしょう。
創発的戦略のデメリットとは
創発的戦略のデメリットは、「行き当たりばったりの企業経営となるリスク」があることです。そもそも創発的戦略とは、偶然遭遇した想定外の事態に応じて、経営戦略を修正したもののことです。修正を重ねていくことで、ビジョンや目標との一貫性が取れなくなる恐れがあります。また、自社の強みを発揮できない非効率な経営をしてしまう可能性もあります。
創発的戦略と意図的戦略のバランスが重要
このように、創発的戦略と意図的戦略にはメリットもデメリットもあります。未来を予測することは難しいですから、意図的戦略だけに傾倒するのではなく、創発的戦略をバランスよく取り入れることが重要です。
創発的戦略には「変化に対応しやすい」というメリットがあるものの、意図的戦略(戦略策定)を軽視すると、闇雲に資金を費やして損失を出してしまうかもしれません。入念に経営戦略を策定しつつ、都度最適な戦略に修正していく姿勢が大切ですね。
創発的戦略と意図的戦略のバランスを取るために重要なのは、以下の3つです。
・自社の状況を把握する
・余白を常に持っておく
・撤退条件を決める
自社の状況を客観視し、「今、意図的戦略にいるのか」「創発的戦略にいるのか」を見極めることを意識しましょう。自社のビジョンやミッション、バリューと合致する戦略であれば、意図的戦略のなかにいると捉えて前進しても良いでしょう。しかし、「これは本当に自社のビジョン実現に貢献することなのか…?」と疑問を感じるのであれば、創発的戦略のなかにいると捉えてみましょう。「今は、あえて偶然の流れに身を任せている」と状況を把握することで見えてくることもあります。
また、常に余白を持っておくことも重要です。気持ちに余裕があれば、予期せぬ偶然のチャンスが入ってきます。切羽詰まった状況では、チャンスに気づくことすらできません。
さらに、もっとも重要なのは撤退条件を決めておくことです。戦略は仮説に過ぎませんから、どんな綿密な計画でも、臨機応変に対応した戦略でも、実現できるかはわかりません。だからこそ、戦略からの撤退条件をあらかじめ決めておくのが良いでしょう。どういう状況になれば身を引くかです。それを決めておくことが、自社の生存対策になります。「こんなに資金や労力、時間を投じたのだから辞めるわけにはいかない」なんて事態や発想は最悪です。