ソーシャルワークシェアリングの概念と働き方、雇用スタイルを世界に広げよう

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ソーシャルワークシェアリングは、新しく生み出された概念です。SDGs時代・SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)時代において、障がい者の雇用創出、雇用確保、雇用維持などの就労支援の面で欠かせない概念になっていくでしょう。本稿では、ソーシャルワークシェアリングの基礎知識についてご紹介します。

ソーシャルワークシェアリングとは

ソーシャルワークシェアリングとは、「ソーシャルワーク」と「ワークシェアリング(ジョブシェアリング)」を組み合わせた造語です。健常者と障がい者の垣根を越え、働く人たち同士で仕事を分け合うことを言います。「SWS」や「ソシャワ」とも略されます。

ソーシャルワーク、あるいはソーシャルワーカーとは、病気や障がいなどによって生活に課題を抱える人に対して社会福祉支援を行うことやその専門職のことを言います。社会福祉支援とは、医療や介護・福祉に関する相談や援助のことです。

支援を必要とする人たちをサポートすることはもちろん、病院や施設、学校などでの生活に関わるさまざまな機関・専門家と連携することもソーシャルワーカーの役割です。一般的には、社会福祉士や児童福祉士など、社会福祉支援活動を行う人の総称をソーシャルワーカーと表していますが、社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格を持つ者に限定してソーシャルワーカーという場合もあります。しかし私たちは、より広義に「支援を必要とする本人やその家族に対して支援を行う支援者たちとその経営者全員」をソーシャルワーカーと考えています。

一方のワークシェアリング(ジョブシェアリング)、あるいはワーキングシェアは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を実現するためにも重要な考え方で、2019年に日本で実施された働き方改革にも盛り込まれています。

ワークシェアリングは、もともと1970~1980年代に、雇用機会の創出を目的として不況下のヨーロッパで始まった施策です。1980年代に大不況となり失業者が急増したオランダで、1982年にワッセナー合意が政労使間で締結され、ワークシェアリングが推進されました。この推進によって、オランダ政府は減税と社会保障負担の削減を実行し、労働者は収入をそれほど減らすことなく労働時間が短縮され、企業は人件費の抑制を実現できました。

ワークシェアリングが成功したオランダでは、さらに1996年に正規社員と非正規社員の格差を埋める「同一労働同一賃金」が、2000年に労働者が自身の勤務時間の短縮や延長を決められる「労働時間調整法」が制定されました。

また、2000年代のドイツでもワークシェアリングが導入されており、これによって失業率が14%から2.4%に改善されたとされています。

このワークシェアリングの概念を、健常者だけではなく、知的障がいや精神障がいを持つ障がい者の雇用にも広げるのが「ソーシャルワークシェアリング」です。仕事によって得られる幸福感は人生の質、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)に直結します。そのため、ソーシャルワークシェアリングの考え方を普及させることは、極めて社会的意義のあることです。

また、税金で生活する人を増やすのではなく、働いて税金を納める人を増やすことも重要な意義を持ちます。その人なりの自立の形、就労の形があり、その実現を支えることは社会の一員である私たちにとって欠かせないことです。

ソーシャルワークシェアリングを導入する企業のメリット

働き方改革を推し進める日本でワークシェアリングが注目を集めるようになったのは、「少子高齢化による労働力確保・生産性向上の必要性」や「女性の社会進出の後押し」などの背景があるでしょう。雇用対策として、障がい者や女性、高齢者が働きやすい環境づくりに力を入れる企業が増えています。

2019年4月1日から施行されている働き方改革においても、短時間労働やリモートワーク・テレワークの導入など、多様な働き方を推進するための政策が盛り込まれています。雇用創出や雇用確保、雇用維持は、国策としても重要なことなのです。

働き方改革とともに、ソーシャルワークシェアリングも今後注目されるようになるでしょう。ソーシャルワークシェアリングを導入することで、企業にも以下のようなメリットがあります。

・人材を確保できる

・(先天的・後天的な)障がいによる解雇を回避できる

・深夜労働や休日出勤を削減できる

・業務の属人化による非効率を削減できる

・生産性を向上できる

・上記の好循環をつくることができる

ソーシャルワークシェアリングでは、就労継続支援事業所等の、障がい者就労支援関連事業所に仕事を発注(外注、アウトソーシング)したり、障がい者就労支援関連事業所を運営したりして、障がい者の方々の雇用機会を創出することになります。普段から就労継続支援事業所等の障がい者就労支援関連事業所との接点を持つことで、社会福祉をより身近に感じ、捉えることができるでしょう。グループ内に就労継続支援事業所等の障がい者就労支援関連事業所を持つことで、人材の確保や解雇の回避、労働環境の向上や生産性の向上を実現することも可能になります。

ソーシャルワークシェアリングの導入例と意義

ソーシャルワークシェアリングでは、多くの好循環を生み出すことができます。ソーシャルワークシェアリングを導入する企業側のメリットだけではなく、働く人たちのメリットについてもご紹介します。

働く人たちのメリットは、端的に言えば「脱・内職」を実現できることです。

通販事業の一連の業務を例に、ソーシャルワークシェアリングについて考えてみます。例えば、以下のような業務内容があります。

  1. 商品の搬入・検品
  2. 商品の保管
  3. 商品サイトの制作/販促動画の制作/広告制作、広告運用/SNS運用
  4. 注文受け
  5. 商品の梱包・発送
  6. 顧客フォロー

これらの業務のなかで、これまで就労継続支援事業所等の障がい者就労支援関連事業所に仕事をアウトソーシングしていたのは、①の商品の搬入・検品や②の商品の保管、⑤の商品の梱包・発送が主でした。

しかし、就労継続支援事業所等の障がい者就労支援関連事業所で対応できる業務の領域は広がってきています。そのため、③の商品サイトの制作/販促動画の制作/広告制作、広告運用/SNS運用や④の注文受け、⑥の顧客フォローなどに対応できる支援事業所もあるでしょう。

ところが、まだまだ仕事を発注する企業側にこの事実が認識されていないこともあり、障がい者の方々の仕事内容は内職のようなものに限られてしまっています。自分の能力を最大限発揮できる仕事をする方が、よりクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が高まり、幸福な人生につながると思うのです。

私たちは、この「ソーシャルワークシェアリング」の概念や活動を広め、一人でも多くの仲間を増やしたいと考えています。善意の輪を広げることで、一人でも多くの障がい者の方が仕事を持ち、本人なりの自立を実現することができれば、社会はより良くなるはずです。

日本障がい者就労支援学会が「社会福祉エコシステム」をつくる』でご紹介した日本障がい者就労支援学会シンポジウムでの活動は、このソーシャルワークシェアリングの普及啓蒙活動の一環でもあります。学会員は研究員であり、専門知識を持つ障がい者就労支援の実践者です。

本稿が、ソーシャルワークシェアリングや日本障がい者就労支援学会シンポジウムを知るきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

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