作家の小野一起氏は、「コロナ危機のいま、『空気を読み、人望がある』社長ほど会社を潰す」と言います。中小企業の社長さんには、人望の厚い方が多いですよね。では、中小企業がコロナ後を生き残るために、経営者はなにを求められるのでしょうか。
修羅場の経営者に求められる8つの要諦
危機時、修羅場の経営の要諦は、ほぼ八つです。
具体的には、(1)最悪想定力、(2)露悪力、(3)キャッシュ・イズ・キング力、(4)「トリアージ」型経営力、(5)独裁力、孤独力、(6)(米国のドラマ「スーツ」の)ハーヴィ・スペクター力、(7)(お金には二種類あることを分かっている)ファイナンス理解力、(8)空気無視力、鈍感力です。
一番目に「最悪想定力」が来ているのが興味深いですね。
常に「最悪の事態を想定する」ということでしょう。
経営者にとって欠かせない能力の一つかもしれません。
どんなに今が好調だったとしても、いつまでも右肩上がりに業績を伸ばせるわけではありません。
「成長し続ける」と妄信することは、究極の楽観主義とも言えますね。
コロナ禍では生存対策がなによりも優先される
「トリアージ」型経営力は、経営課題の優先順位が付けられるということでしょう。
災害の際などは、医療体制に限界がある中、限界状況下で、救える患者さんが誰なのか優先順位を付ける能力が問われます。経済危機に直面した時、経営者は、どのビジネスを残し、捨てるのかを果断に判断する必要がありますね。
(中略)
手元キャッシュを日本企業で最もたくさん持っているトヨタ自動車が直ちに1兆円の借り入れを積み増したのはさすがだと思いました。
まずは「最悪想定力」と「キャッシュ・イズ・キング力」が高いということだと思います。危機の経営においては、何よりも優先されるのは生き残りです。大企業になるとサバイバルの成否は取引先、従業員など数多くのステークホルダー、それもそこで働く多くの人々の生活や人生に関わります。
その危機感を持って、悲観的・合理的に考え備え、楽観的・情熱的に果敢な行動を起こせるか。
日本の経営者たちが本格的に試されるのはこれからですね。
よく「選択と集中」と言いますが、コロナ禍の今、それが求められているのかもしれません。
自社の強みに集中し、それ以外は捨てることを迅速果断に判断するというのは、言葉以上に難しそうですが。
「今までこれだけ先行投資しているから、今やめるのは…」
という心理に陥ることはよくありますが、もったいない精神が決断を妨げてしまうこともありそうですね。
決断は社長本人にしかできない仕事ですから、いつでも思考はクリアでいたいものです。
悩んでばかりいて決断を先送りしていては、生存することも難しくなってしまうでしょう。
人望がある社長ほど会社を潰す?
産業再生機構の実務トップ、JALタスクフォース、そして経営共創基盤(IGPI)の200名の企業再生プロフェッショナルのトップとして私自身、数多くの企業の再生にたずさわる経験をしてきました。その経験から言えば危機時や修羅場で機能するトップは、組織人として有能で人柄もいいタイプは、少なくともトップとしてはダメです。
空気を読み、気遣いができ、人の意見をよく聞き、上司からも部下からも人望があって、行儀も良くて、敵がいない、だから調整能力抜群……という、いかにも日本の伝統的組織において平時に出世するタイプは役に立ちません。
「サラリーマン社長」と揶揄されることの多い日本の大企業社長ですが、小野氏がおっしゃるように、確かにそのタイプの社長はいつまでも決断できないかもしれませんね。
人の意見を聞いているうちに、決断の機会も商機も逃してしまいそうです。
答えは現場にあることが多いですから、社長自ら足を運んで現場に眼差しを向け、答えを見出すことの方が重要かもしれません。