海外不動産投資や事業の海外進出に関心のある経営者の方も多いでしょう。特に海外進出は、経営者にとって夢のある話かもしれません。「コロナが落ち着いたら海外にも行きたいし、海外進出も検討したい」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、海外不動産投資にしても海外進出にしても、そう簡単ではありません。今回は、私がインドネシアのバリ島で不動産事業(デベロッパー)を軌道に乗せるために気をつけた点をご紹介します。
海外不動産投資 成功の秘訣① 契約やリーガルチェックを怠らない
私は2014年にインドネシアのバリ島へ一時移住し、その後、日本に帰国してから日本の税理士さんと一緒にバリ島で不動産開発事業(デベロッパー)をしています。具体的には、ローカルの方々向けのアパート建設とアパート経営です。土地探しから建設、入居付け、物件管理までを一貫して行っています。
2015年の春頃から、税理士さんと「バリ島でなにか事業をしようよ」という話が出始め、同年秋に現地視察へ行ってアパート投資をすることになり、翌年の2016年春頃に現地法人の登記を始めました。現地法人の登記が完了したのは、2016年の年末のことです。
その後、2017年10月に地鎮祭を行い着工。アパートが完成したのは、2018年の7月でした。完成後はすぐに満室になり、初年度のグロス(表面利回り)は12.19%、ネット(実質利回り)で10.88%でした。
ただし、現在は新型コロナウイルスの影響もあり、家賃を一律30%ほど値下げしています。バリ島では、外出禁止や外出に規制がかかっている時期がありました。観光が主産業でありながら入国・入島に制限がかかるというのは、死活問題です。収入の大幅減は避けられないでしょうから、家賃を下げることで住環境が安定し、少しでも現地の方々に貢献できればうれしい限りです。
物件管理は、地主さんであり、現地法人の社員にもなってもらっている友人に任せています。その友人も「家賃を下げてもらえてよかった。観光の仕事がないから、みんな田舎に帰っている。でも中には帰れない人もいるから、アパートにいられることで安心できる人もいる」と話していました。
そんな信頼関係で成り立っている私たちのバリ島での不動産事業ですが、日本の投資家や中小企業オーナーの方々とお話をしていると、思わぬ失敗パターンが見えてくることがあります。客観的に見ると、「なぜそんなことをしてしまったのだろう…」と感じることもしばしば。多いのは、契約書を全く交わしていないケースです。
「現地のパートナーを信用している。だから、契約書は作っていない」
「パートナーが裏切るようなことはない」
そう言って、契約書を交わしていないことがあります。これは、絶対にやってはいけないパターンです。相手との信頼関係があるからこそ、契約書はしっかりと交わした方が良いでしょう。本当に信頼関係があるなら、「契約書を交わそう」の一言くらい言えて当然です。末永いお付き合いをするためにも、契約書は絶対に交わすことをおすすめします。
契約書は、現地の言語と英文の2言語で作っておいた方が良いです。例えば、インドネシアでは最高裁で「インドネシア語以外の契約書は無効」とする判決が出ています。多くの新興国でも似た傾向があるかもしれません。必要に応じて日本語にも翻訳し、現地の法律に精通した人にリーガルチェックをしてもらうことも大切です。
契約書は、「万が一」に備えて後々トラブルにならないように、あらかじめ約束事を取り決めておくものです。トラブルになってからの対応ですと、海外の場合「時すでに遅し」ということもありますから、法的に効力のある方法で契約書を交わしてください。
海外不動産投資 成功の秘訣② バイアスなし&フラットに考える
前例や実績があることはとても大切なことなのですが、海外では「去年はできた」という実績がなんの根拠にもならないことがあります。「この方法で大丈夫。だって去年も、その方法でできたから」と安心していると、予想と全く異なる結果が待っているかもしれません。
特に新興国では、法律や規制がコロコロ変わる国も多いでしょう。毎年変わるのは当たり前。早ければ数カ月に一度。もっと早ければ、ほぼ毎月変わるほど。あまりにもコロコロ変わるので、だれも正確な情報をキャッチアップできていない、なんてこともあります。実際に、「ルールはそうだけど、現場の運用は違う」ということもあります。情報が末端まで行き届いていないということですね。
これは、新興国に限った話ではないかもしれません。日本でも、法律や条例などは次々と新しいものもできていますから。ただ、新興国はその変化が激しい気がします。「先月はできたけど、今月はどうかわからない」くらいの気持ちで臨む方が、精神衛生的にも良いでしょう。何事も、やってみないとわからないのです。
私たち夫婦がバリ島に移住した2014年にビザについて調べていたとき、2011年頃からバリ島に住んでいる日本人の友人が、
「だれも正しい情報をキャッチアップできない。エージェントや役人でさえも。法律で決まっていても、窓口レベルでは解釈が違ったり、情報が下りてきてないこともある。つまり、やりながら対応・順応していくんです」
と教えてくださいました。本当に、やりながら順応していくしかありません。
それだけルールが流動的に変わると、本を読んでもあまり役に立たないことが多いです。数年前に発行された会社設立に関する本を読んでも、「こういうルールもあったんだな」くらいの認識に留めておいた方が賢明でしょう。
日本人の感覚からすれば、会社設立代行はほとんどルーチンワークに思えますが、新興国ではそうもいかないようです。2~3年前の情報でも、役に立ちません。1年前の情報でさえ、役に立たないかもしれません。1ヶ月前の情報でも、もしかすると…。20年近い実績があるエージェントの方でさえ、常に新しい情報を得る努力を続けています。柔軟性と忍耐力が鍛えられますね。
外国人がインドネシアで会社を設立する場合、ローカルPT(内資)とPMA(外資)の2種類があります。事業目的毎に産業番号(KBLI)を取得する必要があり、外資100%で会社を設立できるかどうかは、コロコロ変わる法律次第です。
PMA(外資)の場合、インドネシア投資調整庁(BKPM)でプレゼンテーションを行い、許可を得る必要があります。プレゼンテーションは、通訳が同席はできますが、基本的には設立予定の代表者がBKPMに出向いて行います。このプレゼンが却下されて、インドネシア進出を諦める方もいるようです。「進出すらできない」というケースもあるということですね。
日本での会社設立なら、1~2週間で完了することが多いでしょう。それがインドネシアでは約半年かかります。「なんて長いんだ…」と思いましたが、私たちは順調な方でした。日本食堂を営む日本人の方曰く、「半年でできたならラッキーだ。設立できない人だって多いんだから。良いエージェントに出会えたね」とのこと。進出すらできずにインドネシアから撤退するケースが、本当に多いそうです。
海外不動産投資 成功の秘訣③ 柔軟性と忍耐力を持つ
日本ですと、「契約書に書かれていることは履行される」と認識している方が多いと思いますが、インドネシアではケースバイケースです。
契約書に「着手金の50%は、プロジェクトが廃止になった場合返還される」と記載があっても、お金が契約書のとおりに戻ってくる可能性は五分五分。「戻ってくればラッキー」くらいの認識が正しいかもしれません。
プロジェクトが廃止になったとしても、
「いや~、もうお金は使っちゃったんだ」
「親が病気になっちゃって…」
「………(音信不通)」
という反応をされることが多いでしょう。一度支払ったお金は、二度と戻ってこないと考えていた方が、後から怒る必要もありません。金額によっては一部戻ってくるかもしれませんが、労力に見合うかどうか。切り替えて次に進んだ方が良いかもしれません。
海外不動産投資についてネットで調べると、ネガティブな情報に行きつくことがあります。具体的には、「工期が延びるのは当たり前」「物件が完成しない」「仲介者が音信不通になった」などです。
バリ島でも、「工期は延びに延びる。延びるのが当たり前」と言われていましたが、支払いが遅れなければ契約書の工期どおりに進むこともあります。私たちの場合、契約書の工期よりも1ヶ月ちょっと早く完成しました。これは、とてもポジティブなことですね。
一方で、「そんなことあるんだ…」ということもあります。数十年に一度の天災に自分たちが遭遇するなんてことは想像していませんでしたが、着工前にバリ島のアグン山が54年ぶりに噴火しました。噴火によって、建材の値段が少し上がりました。
今回は、インドネシア・バリ島でのアパート経営について書いてみました。読んでいると、インドネシアやバリ島について深く知っているように感じるかもしれませんが、私は現地を数パーセントしか理解できていないと思います。バリ島は、それだけ奥深いところです。これからも、想定外のことばかりが起こるのでしょう。柔軟性と忍耐力を持って続けていこうと思います。