「PDCAサイクル」という言葉は、ビジネスパーソンであればほとんどの人が耳にしたことがあるでしょう。PDCAサイクルとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)をくり返すことで、事業や業務を継続的に改善していくビジネス手法のこと。このPDCAサイクルは、今でも役に立つのでしょうか?
PDCAサイクルは死語で役に立たない?
「PDCAサイクルは役に立たない」とまでは言い切れませんが、すべての経営課題がPDCAサイクルによって解決されることはありません。PDCAサイクルが役立つケースと、役立たないケースがあります。
PDCAサイクルが役立つのは、「正解が明確な場合」に限られるでしょう。ある程度、事業や業務の「型」「フォーマット」「前例」ができており、その方法をブラッシュアップしていけば良い、という場合です。予測がある程度可能で、実績値を取りやすい既存事業などであればPDCAサイクルは役立つでしょう。
一方で予測不可能な新規事業の場合、PDCAサイクルはほとんど役に立たないかもしれません。むしろ、PDCAサイクルが決断を遅らせ、思考を固めることで悪い方に作用してしまう可能性すらあります。
日本企業は、「カイゼン」は得意ですが、新しくなにかを発想することは不得意であると言えます。消費者のほしいものが明確だった成長社会時代には、PDCAサイクルはうまく作用していたかもしれません。しかし現代のような成熟社会時代では、消費者の趣味嗜好は多様化し、ある程度満ち足りた生活ができている消費者自身、なにがほしいのか明確に認識していません。
VUCA時代に「正解はない」という厳しい答え
現代人は「わかりやすい症候群」だと言われています。すぐに答えを求めがちです。「結論先に言って」というやり取りにもそれが表れていますし、スマホですぐに検索できることも影響しているのかもしれません。Z世代と呼ばれる若い世代は、YouTubeや映画、音楽も倍速で視聴するほど。時短やコスパという言葉にも象徴されているでしょうか。
予測困難なVUCAの時代。人生においても、会社経営においても、一つひとつの事業においても、明確な答えはわかりにくくなっています。PDCAサイクルのような「型」に押し込んでも、万物の答えは出ません。私たちは、「正解はない」という厳しい答えと現実に向き合い続ける必要があります。
最近はデザイン思考やアート思考という言葉がビジネスの世界でも注目されるようになりました。メディアアーティストや芸術家たちは、正解のない問いに日々向き合い、作品のなかでその格闘や葛藤、たどり着いた真理を表現しています。芸術表現は、突き詰めれば哲学です。哲学とは、正解のない問いと向き合うことですから、メディアアーティストや芸術家たちの視点や発想は、現代では役立つのかもしれません。
正解のない時代に生き残るためには
有名なビジネスパーソンであるスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは、「正解のない問い」と向き合ってきた経営者なのかもしれません。彼らの問題意識は、普通の経営者とは異質ですし、視座が高い位置にある印象があります。世界や時代を俯瞰して観察し、より広い問題に対してアプローチしようという思考です。
もちろん、世界中のすべての経営者がスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような視点を持ち、同じような仕事の仕方をしていては、社会は成立しないでしょう。天才はあくまでも天才。稀な存在だからこそ、存在意義があるわけです。世界中の全員が天才になれば天才も凡人になりますし、大手企業の経営者と中小企業の経営者、ベンチャー企業の経営者には、それぞれの役割があります。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような経営者だから優れた経営者なのではなく、それぞれがそれぞれ優れた経営者なのです。
経営者としての成功にも、人生の成功にも正解はありません。「正解のない自由さ」を楽しむことができれば、それだけで成功なのかもしれません。